公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY

事例で防ぐ子どもの傷害 Injury Alert(傷害速報)

No.032:類似事例:首浮き輪使用中の溺水(No.32 首浮き輪による溺水の類似事例 7)○

タイトル首浮き輪使用中の溺水(No.32 首浮き輪による溺水の類似事例 7)○
事例_基本情報年齢:0 歳 6 か月 性別:男児 体重:7.4kg 身長:70.0cm
事例_家族構成同居家族は父(26 歳)、母、本児。父方の祖母が不定期に育児応援
のため来訪する。
事例_発達・既往歴周産期歴に特記事項なし。4 か月健診で定頸がやや不安定であっ
たが、生後 5 か月で定頸が確認された。寝返りは右回りのみ可。
傷害の種類
原因対象物
_対象名称
首浮き輪(首回り約 29 cm、首周り内径約 9 cm)
原因対象物
_入手経路 使用状況
本児の出生時に、母のいとこから譲渡された。生後 1 か月頃から
連日、本児の入浴時に使用していた。新生児期は母が沐浴を担当
していたが、事故の 1〜2 か月前からは、父が帰宅している日は
父が入浴を担当していた。
臨床診断名溺水、誤嚥性肺炎、低酸素性虚血性脳症の疑い
医療費入院 1,074,820 円 外来 13,590 円
発生状況
_発生場所
自宅の浴槽
発生状況
_周囲の人・状況
本児は父とふたりで入浴していた。
発生状況
_発生時刻
2025 年 1 月 X 日 (月) 午後 9 時 0 分頃
発生状況
_発生時の詳しい様子と経緯
X 日午後 9 時、本児は父と 2 人で入浴を開始した。父は本児の
首に首浮き輪を装着し、浴槽内に浮かせていた。浴槽の水深
は、本児の足が底に届かない程度であり、首浮き輪の空気の入
り具合は適切であった。本児が機嫌よく遊んでいたため、父は
本児から目を離し、自身の洗髪を行っていた。数分後、父が本
児の様子を確認したところ、首浮き輪の上で脱力し、呼吸をし
ていないような状態で、顔色不良、全身蒼白となっていた。本
児の体勢に大きな変化はなく、安全ベルトは外れておらず、溺
水の原因は不明であった。父は居間にいた母を大声で呼びつ
つ、本児に人工呼吸を行った(胸骨圧迫は未実施)。母が浴室に
駆け付けた時点では、本児に自発呼吸がみられていた。その後
も、本児は首の支えが弱く、苦しそうな呼吸をしていたが、自
宅で様子をみていた。
X+1 日の午前中には、本児は一時的に元気な様子もみられた
が、午後 4 時頃から再び苦しそうな状態となったため、医療機
関 A を受診した。
治療経過と予後本児は、医療機関 A で not doing well と判断され、午後 5 時頃
に医療機関 B を紹介受診した。受診時のバイタルサインは、呼吸
数 36 回/分、SpO2 90%(室内気)、心拍数 140 回/分、血圧 104/49
mmHg 、 意 識 レ ベ ル GCS (Glasgow Coma Scale) 13 点
(E4V4M5)、体温 37.1℃であった。身体診察では、肋骨弓下およ
び鎖骨上窩に陥没呼吸を認め、咽頭に分泌物の貯留音を聴取し、
両肺野で肺胞呼吸音の減弱を認めた。血液検査では、WBC
14,900 /μL、CRP 5.07 mg/dL と炎症反応の上昇を認めたが、静
脈血液ガス検査を含め、その他の特記すべき異常所見を認めなっ
た。胸部単純 X 線検査では、両肺野にびまん性の透過性低下を認
め(図 1)、胸部 CT (computed tomography) 検査では、両肺野に
びまん性のすりガラス影および浸潤影を認めた(図 2)。以上の所
見から、溺水に伴う吸引性肺炎と診断し、入院のうえ抗菌薬治療
を開始した。入院後 2 時間で呼吸数 50~60 /分と頻呼吸を認め
たため、HFNC (high-flow nasal cannula) による治療を開始し
た。X+3 日目および X+8 日目に施行した頭部 MRI (magnetic
resonance imaging) 検査では、低酸素性虚血性脳症を示唆する
所見は認めず、X+15 日目に退院とした。退院時点では、本児は
定頸や寝返りができず、運動発達の退行と判断した。事故から 1
か月時点においても、定頸には至っていない。
キーワード首浮き輪、溺水、吸引性肺炎、運動発達の退行